ブリテッシュアーミーオーバーコート(仮縫い)・後編
100年以上前の製図からそのまま作ると、なで肩過ぎたりAH(アームホール)がタイトで過ぎで着れたもんじゃない。
しかし原型で現代的な形に落とし込むと、古い製図の良さ(傾きの構造)も消えてしまう。
なので良さを残しつつ着心地良い物を目指す、バランスを取るのが肝要かと。
長谷川氏の動画を参考に、原型操作で傾きの構造を実践してみました。
まずは原型操作。AHのダーツ分量はゆとり分として閉じずにそのまま。
①前中心線(CF)から垂直に、AHまでの距離が一番短い地点を基点とし、線を引く。
(開き位置はデザインや意図によって変わる)
その線を2等分した位置から垂直に線を引く。
その垂直線からSNP(サイドネックポイント)までの距離を測る。(左に17.5mm)
②基点から衿ぐり線を2等分した位置に線を引く。
③基点は開かず①で引いた線で18mm、②で引いた線で15mm開く
数値の根拠は18mmの方が前中心線のダーツ分量となる部分で
あまり大きくすると(私の)体型に合わなくなる。
15mmの方も衿ぐり線が長くなり、詰襟の場合は衿の添いが悪くなるので
あまり大きくしたくない。(現に衿の添いが甘い、後に修正)
④ ①の2等分線からSNPまでの距離を測る。(右に15mm)
操作前の原型からは32.5mm、SNPの位置が身体の外側に移動したことになる。
この数値が傾きの構造を生み出します。
始めは28mmずつ開いてSNPから57mmの状態で試したところ
まぁエライ事になったので控えめな数値に落ち着きました。
いずれも仮縫いをした上での妥協としての数値、結果としてそうなっただけの数値です。
製図の際に動かすべきじゃない数値と、単なる結果としての数値を見極めるのはとても重要です。
後者に(時には前者も)縛られると製図の自由度が一気に下がってしまいます。
言ってしまえば製図的に間違ってようが、着た時に変じゃなきゃ何でもいいと思います。
補正原型を使ったver(左)、製図書通りver(右)。ポケットなどの部分は消してます。
まず製図書通りの方をチェスト38インチで引き、そのCLに補正原型を合わせました。
拡大図。製図書通りの方は胸幅の2等分線からSNPまで31mmあるので、より強調された傾きの構造になっている。
ボタン位置からも分かるように、製図書通りの方はCFが斜めになってるっぽい。
これだけ着丈が長く傾きの構造もあるので、着用時は前端がハの字状に脇に逃げていく。
傾きの構造をメリットとして捉えた場合はそのままでも良いが、古い製図でCFが斜めになってるのは
着用時になるべくCFを地面から垂直に通そうと補った結果かなぁと。
さらに斜めになったCFに原型を配した方が、操作により伸びた衿ぐり線が短くなるので好都合。
(元から斜めになってる分、衿ぐりで開く寸法を小さくできる)
斜めCFの場合、原型のCLはどこに合わせたら良いのだろう?
同サイズの補正原型を、同じ位置に重ねると違いがよく分かります。
CLから上はほぼ別物の製図になりました。
原型の後ろはオーバーコートだしAHにゆとり入れたいなーと。
古い製図の方はAHが47.7cmしかありません。『服づくり大全』という本によると
30代男性の袖付根囲が43.5cmで、ジャケットのAHが大体51.65mmだそうです。
この数値だとシャツよりタイトなAHのオーバーコートになってしまいます、ギッチギチです。
(製図をミスった可能性もあるけども)
以下は仮①から改善版の仮②に向けた製図。
左が仮②、中央の青い線が仮①で、黄色い線は仮②を同位置に配したものです。
CFを斜めにしたのでフレア分が更に増える。
拡大図。前衿ぐりの寸法を短く(14.4cm→13cm)、釜底を少しタイトに。
前端をCFから離したのは単なるデザイン面での小変更。
斜めCFに仮②補正原型を置いた図。原型CLを2等分した位置を、製図のCL上に。
衿付け止まり位置を少し高くしたかったのと、AH寸を大きくしたくなかった為この位置に。
う~ん、なんか頓珍漢な方法のような気もして心配。
仮②補正原型。CFで取るダーツを延長する為、18mm開く位置を少し下げ
衿ぐりで開く寸法を大幅減に。傾きの構造を表現する為の寸法だったが、斜めCFにより不必要に。
斜めにしたCFによって傾きの加減やフレアの出方がどうなるのか。
あとCFで取ったダーツが少し多くなったので、芯を作って形状を整えないと
逆に窪んだような見た目になりそう。
芯...芯かぁ...詰襟の場合は返り線を考えなくていいから楽か?
けど明確に返り線を設定してないってだけで衿を返らす着方もするし
今更ながら紳士服の手仕事に関する知識がプア過ぎる。
芯そのものでは無いけど関係が深い話として、こちらの動画も勉強になりました。